いちばん軽視されて、いちばん効く機材
ドラムの機材で「何にお金をかけるべきか」と聞かれたら、私は**イス(スローン)**と答えます。
意外に思われるかもしれません。イスは音を出しませんし、カタログでも地味な扱いです。ドラムセットを買うと付属してくることも多いので、そもそも「選ぶもの」という認識すらないかもしれません。
でも考えてみてください。演奏中、体重のすべてを預けている唯一の機材がイスです。ここが不安定だと姿勢が崩れ、姿勢が崩れるとペダルの踏み込みがぶれ、結果として音そのものがばらつきます。
実際、DrumNaviに収録しているハードウェア54モデルの中で、スローンの中央値は¥27,300と、シンバルスタンド(¥13,200)やスネアスタンド(¥11,105)より高い水準です。それだけ作り込みに差が出るパーツだということだと思います。
座面の形状:3タイプ
丸型(ラウンド)
最もオーソドックスな円形の座面です。体の向きを変えやすく、回転して周りの機材にアクセスしやすいのが利点。エントリークラスの多くはこのタイプです。
ただし長時間座ると、太ももの付け根が圧迫されて痺れてくることがあります。
サドル型(バイクシート型)
バイクのシートのように前が細くなった形状です。太ももが自然に開き、脚の可動域が広がります。ペダルワークが多い人や、長時間の演奏で腰が痛くなる人に向きます。
一方で、座る位置が形状で決まってしまうため、丸型ほど自由に体をひねれません。
トラクター型
サドル型をさらに発展させ、お尻の左右をホールドする形状です。上位モデルに多く、長時間でも骨盤が安定します。
どれが正解ということはなく、体格と演奏スタイル次第です。ただ、30分以上叩いてお尻や腰が痛くなるなら、形状を変えてみる価値は十分あります。
高さ調整の方式:ここが価格差の正体
スローンの価格差は、実はクッションよりも高さ調整の機構で決まっている部分が大きいです。
| 方式 | 特徴 | 価格帯の傾向 |
|---|---|---|
| ネジ締め式 | シンプルで安価。演奏中にずり下がることがある | 入門 |
| スピンドル(回転)式 | 座面を回して高さを決める。微調整しやすい | 中級 |
| ガス圧・油圧式 | レバーで無段階調整。再現性が高く、ずり下がらない | 上級 |
安いスローンで最も困るのが、演奏中に少しずつ座面が下がってくることです。気づかないうちに姿勢が変わり、後半になるとペダルが踏みにくくなる——これは機材のせいであって、腕のせいではありません。
スタジオや自宅に据え置きで、毎回同じ高さで座りたいなら、スピンドル式以上をおすすめします。
価格帯の目安
DrumNavi収録15モデルの実勢価格は**¥5,500〜¥51,000、中央値¥27,300**でした。
| 価格帯 | 収録数 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 〜¥15,000 | 4モデル | 入門。ネジ式・丸型が中心 |
| ¥15,000〜¥30,000 | 5モデル | 中核。クッションと安定感が明確に向上 |
| ¥30,000〜 | 6モデル | 上級。ガス圧・厚手クッション・バックレスト |
最初の買い替えとしては¥20,000〜¥30,000の帯が最も効果を感じやすいと思います。付属品の丸型ネジ式から、厚みのあるクッション+しっかりした3本脚に変えるだけで、座り心地はかなり変わります。
※価格は調査時点のものです。最新の情報はハードウェアの全モデル一覧でご確認ください。
バックレスト(背もたれ)は必要か
上位モデルには背もたれ付きのものがあります。
レコーディングや長時間のリハーサルでは、待ち時間に背中を預けられるのが効いてきます。一方で、演奏中はほとんど使いませんし、セッティングの自由度は下がり、持ち運びも重くなります。
据え置きで長時間使うなら検討する価値がありますが、最初の1台としては優先度は高くないと思います。
高さの決め方
機材選びと同じくらい大事なのが、買ったあとの高さ設定です。
基本は次の通りです。
- 座ったときに膝の角度が90度、またはやや開く高さにする
- 座面の前1/3に浅く座る(深く座ると骨盤が寝て脚が動かしにくい)
- 背筋を伸ばし、両足が自然にペダルに乗る位置を探す
膝が90度より深く曲がる(イスが低すぎる)と、太ももに力が入らずバスドラムが踏みにくくなります。逆に高すぎると、今度は体が安定しません。
フォーム全般についてはグリップとフォームの基礎にもまとめています。
よくある質問
Q. ドラムセットに付属のイスで足りませんか?
始めるぶんには十分です。ただし付属品はネジ式・薄めのクッションであることが多く、長時間の練習では差が出ます。ハードウェアの中では最初に買い替える価値が高いパーツだと思います。
Q. 中古のスローンはどうですか?
金属部分は消耗しにくいので選択肢になります。確認すべきは、高さ調整がしっかり固定されるか、クッションがへたっていないか、ゴム脚が劣化していないかの3点です。特にクッションのへたりは戻らないので、実物を見られる場合は座って確認してください。
Q. ガス圧式は壊れやすい?
構造上、ガスが抜ければ高さを保てなくなります。ただし実用上は長く使えますし、上位モデルは交換用シリンダーが供給されていることもあります。購入時にパーツ供給の有無を確認しておくと安心です。
Q. 高さは何を基準に決めればいい?
膝の角度90度が出発点です。そこから、バスドラムを踏んだときに踵が浮きすぎないか、スネアに対して腕が窮屈でないかを見て微調整します。正解は体格で変わるので、数値ではなく体感で決めてください。
イスを変えても、翌日いきなり上手くなるわけではありません。でも、1時間叩いても腰が痛くならない、毎回同じ高さで座れる——この積み重ねが、長い目で見ると確実に効いてきます。
自分に合うハードウェアを探すときは無料の機材診断もぜひどうぞ。DrumNaviでは引き続き、上達に役立つ情報をお届けします!